そして円環はひらく

ただの読んだ本メモ、人が読む用には書いていません

ソロモンの犬

ソロモンの犬 (文春文庫)

ソロモンの犬 (文春文庫)

面白かった。
この内容からして重厚なトリックは期待していなかったから、
・どうして少年は死ななければならなかったのか
・一体犯人は誰なのか
というネタについてはOK、充分に及第点。動物工学を絡めて上手くまとめていると思う。
引っ張るだけ引っ張られても、読者はどどんと来る種明かしを求めてはいけない。
とにかく甘酸っぱい青春メンバーの一員になり楽しむべし。


チェックしてた伏線
P15「…のところに行くつもりだった〜」→謎。
P69「ねぇ京也、ケイー」→携帯見たかったのね。
P109「手に入れたい相手」→先生。
P112五百円玉が京也の額に当たった→視野。
P310掛ってきた電話は?→お祖父さんが急変した電話。


最後に、死ぬ間際にバーベキュー仲間を呼び出すお祖父さん…素敵です。

アイデンティティー

アイデンティティー (ヴィレッジブックス)

アイデンティティー (ヴィレッジブックス)

以前映画で見てお気に入りだった作品。そのノベライズ版。
そして誰もいなくなった」のオマージュようなクローズドサークル物。
嵐でモーテルに足止めされた人々。
事故を起こしたタクシー運転手、その事故で怪我を負った母親、子供、父親、売春婦、
映画女優、若いカップル、囚人を護送中の警官、モーテルの管理人、
この11人が次々と殺されていく。
殺人現場には部屋番号のキー。番号がカウントダウンされていき、犯人の目星が次々と変わっていく。
まず囚人が手錠から抜けて自由になった。こいつが怪しい。次に警官の素振りが変だ。怪しい。
さらに何か隠し事をしているらしい。管理人が怪しい。
うぅむ。
そして何故かモーテルから脱出することができない。

まぁご多分にもれずこれもノベライズ版らしさは溢れていて、文章ヘタ。構成ヘタ。人物描写ヘタ。
アメリカ・インディアンの呪いの差し込み方が中途半端すぎて、
せっかくこれが目眩ましに一役買うだろうに…むしろ蛇足にすら思える。
でもこの話好きなんだよなぁ。何となく映画のシーンを思い出しつつ、退屈な文章を最後まで楽しく読めた。

贖罪

贖罪

贖罪

積んどいて良かったー面白い!ネタバレあり。
美しい描写に溢れる幼少期、家族の間で少女ブライオニーは物語を繰り広げる。
大好きな兄リーオン、そして悪夢を見ると宥めてくれる優しい姉セシーリア。
その豊かな、そして頑なな想像力の中で、ある日少女は罪を犯す。
性に対する幼い嫌悪感と正義感、そして思い上がり。
幼馴染ロビーは性犯罪者に仕立て上げられ、セシーリアと離れ離れになる。
恋に気付いたその日に。


その後紡がれるのは、この罪が核となって人生を変えられた人たちの物語。
ロビーは恋人と過ごすはずの時間を厳しい刑務所で過ごし、戦争へ赴く。
セシーリアは恋人の帰りを待つ。
看護師になったブライオニーは贖罪を胸に、看護師の仕事をする。
そんな中ある日、彼女は意を決して姉の元へ向かう…
何とそこには姉と暮らすロビーの姿。愛は失われず、二人は一緒にいた。
ロビーは敵意をむき出しにするがセシーリアに宥められ、とにかく赦されずとも3人は再会を果たす。
そしてこの作品の必然として、第三部の最終、ある事実が明かされる。
文末の目を疑う署名。


ブライオニー・タリス
ロンドン、一九九九


鳥肌。瞬間、どこの部分が都合のよい”虚”だったのか…高速で頭が働く働く(笑)
あぁやっぱりこの違和感。全ては彼女の手記だったのか。


続く最終章、現在。ロンドン一九九九年。
77歳のブライオニーは自分の書き物に思いを馳せる。
現実ではロビーは戦地で死んだ。セシーリアは同年爆撃によって死んだ。
二人の愛は叶わず、もちろん姉の部屋での三人の再会も無かった。
私は贖罪を胸に罪のない愛の形を完成させた。
自身の罪を描くことに力を注いだ。
書き物の中でも自分は赦されたことにはしていない。
そして締めくくりはこうだ。
「物事の結果すべてを決める絶対権力を握った存在、つまり神でもある小説家は、いかにして贖罪を達成できるのだろうか?」
これが「贖罪」というタイトルの本意。


私からするとブライオニーはとても狡い。悪意を抱くほど。
書き物の中で彼女は謝った。「本当に本当にごめんなさい」
馬鹿げて不適切な言葉だったかもしれないが、赦されはしなかったが、彼女は謝ったのだ。


そして一番違和感のあった場所、再会した時のロビーのブライオニーに対する怒り。
あれがブライオニーの想像する、そして許容できる限界なんだろう。
ロビーの怒りを自分に向けて決着を付けているのが狡い。
彼女はロビーに怒りの言葉を発せさせ、それを受けとめるべく対面している。
実際には彼はあのように表現できる怒りとして消化できていないかもしれない。いや、憎んですらいないかもしれない。
なのに書き物の中で彼女はロビーの言葉に傷ついている。


結局、彼女は幼少期から何一つ変わっていない。
自分の世界の中で生き、その世界の中で手にした定規を離さないのだ。
現実では彼女はロビーの言葉に傷つくことすらできない。
謝ることすらできない。
だから書き物の中、憎まれる事で、赦されない事で、罰を受けている。それが彼女の”贖罪”。
自らを断罪するあの物語は彼女にとっての救いなんじゃないだろうか。


本作は文学的な表現の美しさと語りの重みを持っている。
冒頭のまだ動き始めない物語も、風景が美しく心理描写も細やかで文字を目で追うだけで楽しい。
少女創作の劇を少女の思い通りにやろうとするあたりは、ブライオニーを一気に把握できてとても面白い。
思春期のある時、内向しているものが一気に外へ跳ねるような感じ、
セシーリアとロビーとの間のじりじりした空気、このままではいられないという緊張感もたまらない。

彼はいつまでたっても、ドアというドアを試せば、
必ずそのひとつは夏に通じるという確信を、棄てようとはしないのだ。


さて、これはどの作品から引用でしょう?本好きな人ならすぐにピンと来るはず。

著者名表記

なんとかならんのか。検索に引っ掛かんない。
R・シェクリィ
R・シェクリー


アンブローズ・ビアス
アンブローズ・ビアース


チャールズ・ボーモント
チャールズ・ボウモント


デニス・ルヘイン
デニス・レヘイン


しかし、○ブッツァーティ ×ブッツアーティ、間違って覚えてた…ややこし。

ソフィー

面白い!!魔術的な力に満ちた幻想小説。「ずっとお城に暮らしている」や「蝿の王」、「悪を呼ぶ少年」、「悪童日記」を思い出した。
良く把握できない点がいくつかあって、その余韻に引っ張られる。あの世界にまた行きたくなる。
解説で挙げられていた3点の”暗喩”の解釈、以下ネタバレ。
・春休み中、しかも姉の誕生日のすぐ後に弟の誕生日を設定した点
アンモナイトに興味を持った点
・日記をあの場所へ隠した点

アンモナイトは、最後のソフィーの死に効かせるため。
赤と言うよりは黒に見えるコート、それを着てくぼみで丸まっているソフィーはアンモナイトを暗喩している。
アンモナイトはマシューにとってどんなものだったか?
…唯一の少年時代の宝物。
…「もうこれは卒業よね」というソフィーの言葉。

→日記をあの場所へ隠したのは、自分の死に誘導するため?

→春休み中に歳をとる設定、姉の誕生日のすぐ後の弟の誕生日の意味?
二人の楽園の中で成長してきた。他の誰にも知られず歳をひとつずつ重ね、誕生を祝う存在はお互いだけという意味付け。
姉のすぐあとの誕生日の意味に関してはよく分からない。


まだまだ謎な点
・囚われていた彼女は、洞窟に閉じ込められたのか?それとも唯一助かったのか?
→パニックを抑える描写や、沢山のソフィーのもつ灰色の鍵を毎日毎日試したという記述、
「時間はたくさんあるのだから」という言葉から察すると、今までのソフィー同様閉じ込められたと考えられる?


・悪夢に現れる”グレディー爺さん”の正体は?
→「あの女がマシューを脅かすのを止めなければ」というソフィーの日記の記述から、母がグレディー爺さん?
それともソフィーか?
何らかの理由があってコートを着て顔を隠した事が、結果的に脅かす事になったのだと思うのだけど、
脅かすことが行動意味だとすると…ちょっとしっくり来ない。
母だとすると、何らかの方法でソフィーは母と対峙し勝った。それは母と娘の力関係からも分かる。
そして退治したはずのグレディー爺さんがまだ、夢でマシューを苦しめていると知り、焦った…
ソフィーにとって全ては完璧に成功していないと駄目なのだ。


・最後、母を自殺に追い込むためにソフィーは母に何を言ったのか?
→赤ん坊を殺したのは自分だと言った?
でも何故マシューは庇護すべき存在で、その下の弟は排除すべき存在?


全ては語り手(マシュー)のフィルタにかかった昔の思い出で、読者には日記ですらチラチラと断片的にしか見せてもらえない。
囚われていた彼女と同じように、私たちには出来事は明らかになってもどんな状況だったのかが分からない。
それが逆に想像力を掻き立てられ、魔力的な力を持つ少年時代の世界にどっぷりと浸かる事ができる。
ピントが合わずもやがかかっているようで細部は妙にはっきりしている、草木の匂いや秘密の隠れ家。
成長が楽園を崩壊させ、二人はそれぞれ違った方法でそれに抵抗した。


著者の意図が同一ソフィーとして読ませることにあったなら、囚われているソフィーがソフィーじゃない土台で読み進めた私とはまた違った読後感になるのか。気になる。

ラジオキラー

ラジオ・キラー

ラジオ・キラー

セバスチャン・フィツェック2作目。やっぱりこの人、サービス精神旺盛というかエンタメ色が強いなぁ。
前作のサイコスリラーからは一転、ラジオ局を乗っ取った犯人と交渉人のエンタテイメントアクション作品。
読んでいる間はドキドキして楽しいけど…
一言で言うとシドニー・シェルダン好きにお薦め。
私には物足りない。