そして円環はひらく

ただの読んだ本メモ、人が読む用には書いていません

いけない

帯は『ラスト1ページに仕掛けられた企み 写真に隠されたもうひとつの結末を見破れ』

以下ネタバレあり

 

一章「弓投げの崖を見てはならない」

全てが「えっ」っていう勘違いの着地点のために用意された辻褄で、いかにも怪しくなく自然にばらまかれてるのに少しの引っかかりがあるという極上の伏線。

・なんで時間言ってんのかなの違和感

・「最近の若者は新聞読まないから」

・石の一撃で女性が男を殺せるのかの違和感

この辺りがすごい。呟いた三文字の名前のミスリードはもはやおまけと思えるほど上記が美しい。

 

最後の写真→周辺の地図

びっくりする事実の後に残るこの章の謎は、ゆかり荘の前で事故にあったのは誰か?

・アパートを飛び出した邦夫か、

・包丁を持ってやってきた雅也か、

・それを阻止しようと走った隈島か。

 

二章「その話を聞かせてはいけない」

最後の写真→おばあさんと甥を崖から突き飛ばしたのはHAPPYのトレーナーを着た山内ってことかな。車のトランクにでも乗り込んでた?

 

三章「絵の謎に気づいてはいけない」

捜査に私情が入り込むとろくな事にならない=隈島は何をしたんだろう?という謎深まれり。

最後の写真→ボールペンと手袋。おそらく「ボールペンで自分を指した」描写の時の竹梨による改変。にしても、相方だった隈島からもらったモンブランで偽装するなんて人の心がない!

二周目からの追記:「捜査に私情が入り込むとろくな事にならない」を隈島を想起させるのはミスリードで、実際は入信してる竹梨のこと。ゆかり荘前の事故を嘘の証言したり、手帳の絵を偽装したり、それに気づいた水元をやっちまったり、本当にろくな事になってなさすぎる。

 

終章「街の平和を信じてはいけない」

ただただ泣ける章。

「安見先生ならきっとー中略ー自分自身のことも、勇気づけたり笑わせたりできるに決まってる」

どうしたってそうできない大人二人がいて、突きつけられすぎて辛い。

結局、自身の罪は妻によって葬られ、図らずとも自分は竹梨の罪を葬った訳だけど、それって何を示してるんだろう。とても赦しには思えない。

『傍に来た人の袖を掴むと、掴まれた人は死んでしまう。逆に相手の袖を引いてやると殺すことができる』中国の妖怪

妻は夫の袖を掴み、邦夫は竹梨の袖を掴んだとも言える。罪に対する救済は償いでそれを阻止される事は魂の死ではないか?彼らは六道のどこへ行けるのか?

 

また、少年二人は街や大人の闇に気づかず、「ね、平和っていうか」と無邪気に未来を見て自転車を漕いでいる描写も、よくよく考えれば、

二章で山内は「このときのお返し、はやくさせてよ」と言って傷を自らほじくり返し穴を開けていて、珂はその穴がどこまでも深く続いてるように感じている。

そのお返しが崖の上で行われ、人を2人殺した彼らは全く「平和」ではないし、山内の薄気味悪い奈落を珂の闇で埋めた形だろう。

 

残る謎、一章で車に轢かれたのは誰か?だけど、最後まで読むと邦夫さんと雅也は生きてるから、消去法で隈島という事になる。

 

【答え合わせの二周目】

一章の写真と照らし合わせ。

p83雅也は「商店街の中ほどにあるスーパー、タイヘイの看板が見えた。包丁を買って駆け出し商店街の南端まで行き左へ曲がればアパート前の道」となると、ゆかり荘へは下から来た。

p86隈島は「商店街の真ん中あたりで立ち尽くしていた。距離は多少伸びるが、ゆかり荘へは商店街を先に出て路地を走った方が早い」となると右へ抜ける道からゆかり荘の前に出た。

車は、シーラインを南へ向かいp262「アパートの前を通り過ぎようとし」p73「突然フロントガラスの右側から人影が現れ」

とあるから車に当たったのは左の路地から南へ向かう車の右に出てきた隈島という事になる。

 

p87『その手に握られていたものがアスファルトに転がる』の3択クイズ、

「弓矢」をもってアパートを飛び出した邦夫、

「包丁」を手にして走ってきた雅也、

「ラークの箱」を持ったまま阻止しにきた隈島、

答えはラークの箱。

 

初めから終わりまで全て面白かった!謎解きも、それ以外も。

 

悪いものが来ませんように


文章がそんなに流れないので読む価値があるかどうかは。ただじっとりしてる。

どれだけ「それ」に早く気づいたか勝負して楽しめればいいかな。

 

以下ただのネタバレ

 

p128あたり

なっちゃん=母親だろうね

冒頭の「悪いものが来ませんように」と祈っていた赤ちゃん=紗映


伏線

・妹の「なっちゃんなっちゃんって気持ち悪い」発言

・元彼になっちゃんが気持ち悪いって言われてフッた

・家の合鍵渡されている

・義実家で実母の料理のことを褒めた発言と、なっちゃんが夜勤明けでしょと言って料理してあげている描写のリンク

・母娘お揃いの服

・梨里ちゃんは年の離れた妹??「梨里ちゃんと紗映の子供を遊ばせる夢を叶えてよ」って孫と子供を?

 

読後

最後の一点だけ外した。

 

街とその不確かな壁/世界の終りとハードボイルドワンダーランド

『自分の影に対して、人としての責任のようなものを感じないわけにはいかない。果たして自分の影をこれまで正当に、公正に扱ってきたのだろうかと』

 

「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」が展開される元となった短編がある。

街と、その不確かな壁

今作とほぼほぼ同名のこの短編は出版化されていない。

 

読むことが叶わなかった作品が姿を変えてこうして祝祭感と共に世の中に顕現した。はっきりと、輪郭を伴って頁をめくれば確かに。整然と切り揃えられた紙の角が指にあたる。

 

『ああ、なんだか自分が美しい詩の数行になったような気がするからです』

 

なんて美しい文字列。

『そこはまさに草の王国であり、私はその草的な意味を解さない無遠慮な侵入者だった』

草的な意味。

うん。

 

 

「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」が足元のぐらつくファンタジーだとすると「街とその不確かな壁」は一連の倒錯の帰結のように思う。

《あの世界で出会って惹かれた図書館の少女》は今作を読むとその意味が変わり、

《深層心理で初恋の女の子が話してた街をそのまんま作って女の子を囲いこんで自分も囚われるがあまり、自分はなぜここにいるんだろう?という自問自答で辻褄を制御し記憶を手放した》になる。随分な倒錯っぷり。

街を作ったのは自分、女の子ともどこかで出会ってるんだろう、くらいの提示だったハードボイルドワンダーランドの壁の街を別角度から見せられて、私のあの世界は瓦解が始まる。もうひとつの、あの世界。

 

途中の章の「僕」はあの世界のたまりに飛び込み帰還した影のはずだ。現実でもそれなりに人間としてうまくできるかもしれないと、たまりで僕とふたつに分かたれた影。影のはずだけど「影は語る」ではなく僕そのもの。

僕と影が分かれていたキャラクターだったハードボイルドワンダーランドと違って、あの世界の少年の言葉を借りるならば、

 

「しかし本体であろうが、影であろうが、どちらにしてもあなたはあなたです」

 

だそうだ。

 

僕と影が切り離され、「影をうしなう」が「心を喪う」なら現実世界では心をなくしては生きられない。

僕はどこまでが僕なのか?その輪郭を探る。

ーーー

以下めちゃくちゃネタバレメモ

 

ハードボイルドワンダーランドでは壁の中の世界に残った僕。ずっと別の結末をあたためられていたと推測し、ハードボイルドワンダーランドのストーリー(結末)が入れ子になった別アンサーを本作とするなら、結末は壁の世界との決別を提示しているのだと思う。

 

追記

最後のシーンは死では、という視点の話

 

前回の帰る方法は『溜まりに飛び込む』

今回は『ロウソクの火を消す』

 

・河原での少女との邂逅シーン

・壁の中の世界は僕の作ったもの僕自身で、その火を消すということは

・そこから出ること(壁の世界との決別)はそれしかないのでは

・「そこから出た人間はいない、少なくとも生きてる人間には」的な子易さんの言葉

・子易さんは生前よりも目をまっすぐ見て話すようになった、いきいきと

 

僕は死のうと思ってない。喫茶店の女の子を待つつもりだし、おそらく、迷いのようなものはないと思う。

というのが逆に裏付けるような気もする。

 

 

ーーー

読み返し

上巻

『人と影が離れるなんて、なんだかおかしいじゃないか』

 

下巻

『この街は不自然で間違っている』

『何もかもが不自然で歪んでいるから、結果的にはすべてがぴたりとひとつにまとまってしまうんだよ。完結してるんだ』

 

『人間の行為というものが神によってあらかじめ決定されているか、それとも隅から隅まで自発的なものかということです』

『私の目から見れば心理科学にスコラ哲学的色彩を賦与したというにすぎんですな』

シャフリングシステムというのはブラックボックスをAで固定して呼び出せるもの、新たな体験が増えたらそれは変化しA'A"と間断なく変化するが思考システムAは保持される。

 

 

レビューで「何が言いたいのかさっぱり分からない」というのを見た。村上春樹が何を言いたいのかさっぱり分かる事などない。

N

読後メモ

道尾秀介好き。

どの話から読むかで印象がガラッと変わるという作品。一話ごとに上下が逆になっている。

全てを読むと確かに背景や人物像は変わってくるけど読む順番の重要性はあんま分からなかった。

砂浜で拾うエピソード良いね……とても良かった。あの話が一番好き。

方舟

久しぶりに。

『9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?』

地下施設に出かけた男女複数人が予期せぬ事態によって閉じ込められるクローズドサークルもの。

脱出するには誰か一人が人柱にならなければならない。

以下ネタバレあり。

 

途中まで、

何故殺す必要があったのか?一週間の猶予の前に出てきてほしくない理由があるのでは?殺人が起こればその犯人を1人生贄にするべきという心理になるから

 

→実際は土砂で埋まってないのでは?防犯カメラは録画を流したとか。

実際はすぐ助けを呼べる状態で誰かが犠牲になる必要なかったというオチでは?

 

などメモしつつ読んだ。そりゃカメラ出てきたらトリック疑うよね。

 

最後まで読んで、

→実際の出口へ誰か一人がボンベで脱出して、助けを呼ぶ選択肢は?出口の生贄問題が無ければ一週間くらい普通に待てるのでは?

が不明。

なんかその可能性潰す描写あったっけ?

麻衣ちゃんはもうちょっとサイコパスだったら良かった。普通に思いついたとしてもすぐ行動できないでしょ。その瞬発力の伏線なさすぎてただただびっくりする。

あととりあえず探偵役がポンコツです。なんでお前わざわざ呼ばれて来た設定盛られてんの?っていう。ちょっと面白い。あんなポンコツなら普通にメンバー内の人物で良くない?

 

○○だからこうなったのだ、という状況説明が多くて想像させる余地が全くない。ラノベとか説明の多い最近の風潮かなと思う。

電話で全てを明かすのもダルくて、それなら真実のみを告げて探偵役が「まさか…」って解けばいいのに。じわじわ下から上がる水のような閉塞感が味わえたのに。

そして主人公がリュックの中からボンベを背負う縄を見つけて「俺の分もあったんだ…」

的な、行間の全くない全て説明してくる作品でした。頭空っぽにして読むと楽しいかも。

森の惨劇

森の惨劇 (扶桑社ミステリー)

森の惨劇 (扶桑社ミステリー)

いつものケッチャムの勢いが萎えてる。
暴力行為がエネルギー豊かなので、いつもは逆に人間性が見えやすいけど、
なんていうか内面を素直に描く力はあまりないんじゃないか。