そして円環はひらく

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鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)

鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)

かの有名な「鳥」を含む短篇集。「鳥」も文句なく面白い。窓にドサッと積る鳥の死骸が目に浮かぶよう。
でもそれに勝るとも劣らない珠玉の短編が勢揃いしてた♪帯の「豊饒なる物語」の文句に拍手したい。
「写真家」
情事の気だるい雰囲気、むっと迫ってくる暑さと陽炎。すごい筆力で引き込まれて、文字から空気が立ち上ってくる。
「モンテ・ヴェリタ」
深山幽谷に建つ石壁、その中には修道院のような俗世を捨てた者たちが住んでいる。
呼び寄せられたかのように妻アンナはその山を登山に選び、そして二度と帰ってこなくなった。
この短さで物凄い濃さ。一大叙事詩
「動機」
出産を控えた幸せな夫婦に訪れた悲劇。妻が何の前触れもなく銃をこめかみに当てて引き金を引いた。
残された夫は真実の解明を探偵に依頼するが、そこには想像もつかない過去が眠っていた…


文体はゆるゆると歩く貴婦人のように上品で、でも足もとに焦点を当てると死骸を踏んで歩いているような残酷さ。
分かりやすく読みやすいけど、読み終わった後に残る感覚は全然さらっとしてない。そんなとこが好き。