そして円環はひらく

ただの読んだ本メモ、人が読む用には書いていません

パイの物語

パイの物語

パイの物語

第1章、冒頭の宗教問答は少し退屈だが、第2章、貨物船ツシマの沈没からは一気に読む手が止まらない。
そして第3章、少年の事情聴取である事実が明らかになる。
ただの漂流記ではない、成長物語でもない。なんとも重くて表しようのない作品だった。


動物の輸送中に貨物船ツシマが沈没し、少年、ベンガルトラ、シマウマ、ハイエナ、オランウータンの5名が救命ボートに乗り助かる。
オランウータンと足を怪我したシマウマは生きたままハイエナに喰われ、ハイエナはトラに喰われる。
残ったのは少年とベンガルトラ。この1名と1匹の気が遠くなるほど長い長い漂流記が始まる。
菜食主義のパイ少年のサバイバルな気迫は凄い。
はじめトビウオを殺すにも涙を流していた少年はその後、ウミガメの甲羅を剥がし生き血を吸ったり、鳥の首を素手で折ったり、もうなんでもござれ状態。
広い海の中、偶然同じく漂流していた男と出会ったり、動物を消化する肉食の島に漂着したり、
そんな少し不思議な体験が描かれた後、場面は救助されたパイ少年の事情聴取へと変わる。
その第3章が物語の根源を覆すようなものなのだ。
トラと過ごした漂流記を信じない大人に向かって少年は言う。じゃあ動物の出てこない話をしようか?
それは、母、コック、青年、少年が救命ボートに乗り、互いに殺し合い肉を食べ生き延びたというもので、絶句するほど壮絶。
そしてトラ&少年漂流記とのいくつかの符号が示される。


・青年は足を怪我していて、コックに足を切断されて殺される
・シマウマは足を怪我していて、ハイエナに足から食べられる


・母はコックに殺される
・オランウータンはハイエナに殺される


・少年はコックを殺す
・トラはハイエナを殺す


さぁ、どちらを信じるの?



広い海で出会った男は「男と女を殺した」と言った=コックの投影(母と青年を殺した)
最後のベンガルトラのと邂逅=自身を許したいという願望
どんでん返しというよりは、いくつかの視点から見た像を一枚に入れ直した印象。一度綺麗にゲシュタルト崩壊させられた。