そして円環はひらく

ただの読んだ本メモ、人が読む用には書いていません

ひとかげ

ひとかげ (幻冬舎文庫)

ひとかげ (幻冬舎文庫)

「とかげ」のリメイク本、「ひとかげ」。
「とかげ」はもう忘れ去ってて、初読のように新鮮で楽しかった。思い入れのない分素直に読めた。
私はリメイクの方がお気に入り。


1、決定的な間違いが直されてる。
精神的な心の病として書いていた”自閉症”という表現が消されてる。


2、叔父に現実味が出てる。
「とかげ」では、父の目前で母をレイプし、その足で庭先で灯油をかぶって自殺する。
精神的な流れを組むと”その足で”ってのが強引。
「ひとかげ」では、レイプした後、無視され続けた叔父がさらに精神に異常をきたして庭先で灯油自殺する。


3、追加されている部分が物語の本意を表してる。
母が犯人について言った「ほんとうに不幸なことだと思う」という言葉。
母の強さを知り、完全悪だった犯人を一人の人間という視点で見た時、とかげは自分のした事の罪を知る。
この作品の”再生”をすごく人間味溢れる言葉で表していると思う。


思いつくまま挙げた点だけでも私にとっては筆を入れ直す価値があった。
本人が「極端を好んで書いた」というように、「とかげ」はものすごいインパクトで、感受性が爆発してる。
でも「ひとかげ」にも感受性の泉はまだとても豊かにある。リメイクしても作品は損なわれていない。
前に読んだ時には多分スルーしていた、「時間の偉大さを知らなかった」と話すとかげにぐっときた。今は実感をもってそう思う。