- 作者: マイケルギルモア,Mikal Gilmore,村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/10/08
- メディア: 文庫
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秘蔵本、村上春樹翻訳のノンフィクション。
文体は読み難く字面を追っていくって感じで、珍しく読破に時間がかかった。
つらすぎる本。真実ゆえ救済が無い。
自ら銃殺刑を求めた兄ゲイリーの真実と家族の秘密を辿っていく本書。
執筆は一番下の弟マイケル。
幼少期から父母の暴力は兄たちへ、そして愛情は自分へ注がれて来た。
彼は例え忌むべきものであったとしても、その家族の輪に加われなかった事を疎外感を持って実感している。
家族の輪とは、あての無い放浪の旅であり、引き継がれる暴力の連鎖であり、
村上春樹の言う「トラウマのクロニクル」。
マイケルは確かに父に愛されていた。でも皆本当はそう。
父は兄を愛そうと努力したし、兄は愛されようと努力した。
和解しようとしてもどうしても衝突してしまう、ゲイリーと父。
一番愛されようとした子供だった、フランク。
一番辛かったのは、ゲイリーが父親の訃報を聞き荒れる場面。
自分に与えられるはずだった愛情を永遠に失った事に対して?
単純に父を失って悲しいという感情じゃなかったんだろう。
この本には、つらいつらいディテールがそりゃもう山ほど出てくる。
例えば、マイケルが犬に襲われそうになった所を父が助ける場面や、
(父のマイケルへの庇護と愛情、この人だって子供に与えるに十分な愛情を持っている)
フランクの出生の秘密、
(どうして母にいつも背を向けられてきたか)
母のテープレコーダの語り、
(父親を愛していたと言う供述、あの人が死ぬその日まで、帰ってくるとドキドキした)
母がマイケルに語った、幼い頃無理やり見せられた銃殺刑の話、
(それは嘘だったと記録簿を見てマイケルは語る。嘘は時に内の真実を露呈するけどそれは何ゆえの嘘か)
最後に再会したフランクが語る、マイケルへの思い、
(俺たちのうち一人は・・・たった一人だけが・・・うまく抜け出せたんだ)
きっとゲイリーの死刑要求は、単に死へ惹かれているわけではなく、自暴自棄でもなく、
苦痛への極端なフォビアによって生み出された、死に対するフィリアかと思う。
恐怖ゆえ死を手元に置いておきたくなるような。
ずっとしかめっ面で読んでいたけど、たまに春樹節が出てきて(やれやれ、etc)クスリと笑えた。
あとがきによる一文、
『ある種の精神の傷は、一定のポイントを越えてしまえば、人間にとって治癒不可能なものになる。
それはもはや傷として完結するしかないのだ』
私には想像するしかない事を、想像しても感じるには難しいことを、少し説明された気がした。