そして円環はひらく

ただの読んだ本メモ、人が読む用には書いていません

あなたの人生の物語

テッド・チャン初読。こんな表現あり!?ってのが盛り沢山、文章が楽しくて仕方がなかった。
難しい理論は殆ど解らずじまいで、解ればもっと深く読めるのにと思うと悔しい。
どの程度が周知の事実で、どの辺を筆者が奔放に書き散らしてるのかが不明。土台と発展すら分からない。


「バビロンの塔」

秀逸。こんなん冒頭にもってこられたら困るじゃんもー。
”空の丸天井”
”かりにその塔をシナルの平原へ横倒しにしたら、端から端まで旅をするのに二日はかかるだろう”



あなたの人生の物語

シーン細切れをフラッシュバックのように連ねる作品。
それはあらかじめ到達点を知っている、光が水面を通って屈折する様に。

遠い未来、娘の頭に落ち、額の傷を作ることになる木製のボウル。
そのボウルをマーケットで手に取るとき、後の母はこう感じる。
”そうすることを強いられたものとは感じられなかった”
”ボウルが頭に落ちてくるとき、それを掴もうと躍起になるのと同じ切迫感”
”従うのが正しいと感じる本能のひとつ”

p256-257
"人類は逐次的認識様式、
ヘプタポットは同時的認識様式
を発達させた。"

"われわれは事象をある順序て経験し、因果関係としてそれを知覚する。
ヘプタポットはあらゆる事象を同時に経験し、その根源にひそむ目的を知覚する。"

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2024追記
映画のメッセージを観た。
運命を受け入れる、という表現と
この子は誰?というセリフが違和感。

それは認識するかしないかなのに、この子は誰?はありえない表現と思う。
運命を受け入れる、というのも↓

p252
"彼女は最善の努力にかかわらず、みずからの運命のままにふるまうことを余儀なくされる。"

原作からすると「運命のままにふるまう」ことに自分の意思は介入しないはずで、
「余儀なくされる」の表す意味と遠く離れてしまうと思う。



「七十二文字」

これ、短編(というか中篇)で有り得ないボリューム。
軽く映画作れるんじゃない。”名辞”の感覚を掴むのに苦労した。


「地獄とは神の不在なり」

神々しい荘厳な作品。うわわわ…ってずっと鳥肌立ちっぱなし。


この人から「ハード」を取り除いても相当大成したんじゃなかろうか。すごい文学的。
だって、バビロンも地獄とは〜もハードじゃないけど相当面白い。
文学的な表現が優れすぎ。
理論メインで、それを面白く読ませるための枠組みに設定があり、味付けに表現を差し挟むって感じ。