そして円環はひらく

ただの読んだ本メモ、人が読む用には書いていません

ビアス短篇集

ビアス短篇集 (岩波文庫)

ビアス短篇集 (岩波文庫)

前に「アウル・クリーク鉄橋での出来事」をオンラインで読んでその才能に驚愕した、ビアス
やっと古本で手に入れて、2か月ほどかけて読んだ。
この作品を読めば「悪魔の辞典」なんてお遊びである事が分かる。あんなもの絶版になってもこちらを後世に残すべき。
芥川「藪の中」の元となったという「月明かりの道」をはじめ、傑作揃いの短篇集。
なんでこんなに胸に迫ってくるのかと思うほど、淡々とした文章なのに死の輪郭が切実。
「行方不明者のひとり」
一等兵は遠い南軍を狙っていた。とそこへ時を同じくして南軍から悪戯半分に発射した弾丸が飛んできて、
衝撃音とともに柱が折れて落下。建物は崩れ一等兵は生き埋めになってしまう。
なんという人生の罠。
目の前には光る金属の輪。それは自分のライフルの銃口だった。
見動きの取れない中、光るその輪はすぐ目の前で機会を狙っている。彼は震え慄く。
自由になる唯一の手で近くの板を取り出しその銃口から逃れようとするが叶わない。
やっきになって逃れようとするうち、ふと彼は冷静になった。震えが止まる。
新たな戦闘計画が浮かんだのだ。彼は銃口に板を当て引き金を引いたー


爆発音は起きなかった。
建物の破壊と共に銃は暴発し、その役目を終えていたのだ。
そこから物語は驚愕のラストへと向かうのだけれど、我が家ではここで2つの解釈が出た。


「引き金を引き、弾を受けたと思う心で本当に死んだ」
・最後の死んで一週間だな、という彼の感じたであろう時間の長さが生きない。
・戦闘計画としては勝った。
・中尉の見た死に顔描写(固く噛みしめた歯)との一致。銃口を引く時の顔と死に顔が同じ。


「引き金を引いたが弾が出なくて、絶望のあまり死んだ」
・弾が出なかった後の時間はどれほど長かっただろうと、解釈できる。
・勝負としては負けた。
・中尉の見た死に顔描写(固く噛みしめた歯)との不一致。
・恐怖で我を失ったのは銃口が目の前にあったから。弾の出ない銃口を前に絶望で死ぬのは納得できず。

前者の方が正解かな?